Ⅵ.税理士の中国進出は可能か
現在の中国は、名実共に世界の工場基地化し、巨大マーケットと相俟って日本を含む世界各国企業の進出を凄まじい勢いでのみ込んでいる。
世界同時不況が囁かれる昨今、年7%台の経済成長を続ける国は、最早、中国にしか存在せず、中国一人勝ちの様相が露呈してきた感がある。
これに比し、日本経済の低迷ぶりは目を覆うばかりであり、業を煮やした日本企業は生き残りをかけ中国進出を図っているのが現状である。
1992年頃から顕著になった中国の経済政策は、一貫して外資導入を基本に、解放・改革路線を突っ走り、1994年の大幅な税制改革、大胆な国有企業改革、優良な民営企業の台頭、WTO加盟と、この10年をひた走ってきている。
この中国で進出企業の支援を行って10年、日本企業の成功例、失敗例を見るに付け感じるのは、日本人税理士の不在である。
中国進出した日系企業が抱える問題の多くは税務問題であり、これに応えられる日本人税理士が殆ど居ないと言う事実は、如何ともしがたい状態であると言わざるを得ない。
企業の存続をかけた中国進出を失敗に終わらせないために、複雑化する中国の税法、企業会計を専門家として指導・支援してくれる日本人税理士を、中国進出した日本企業は一日千秋の思いで待ち望んでいることを、我々税理士は忘れてはならない。
1.中国進出企業が抱える諸問題
中国進出した日系企業が抱える主な問題は、以下の5項目に集約される。
(1)中国税務に関する諸問題
増値税の還付問題、日本支給の給与加算に係る個人所得税問題、中国での役務提供に係る営業税・源泉所得税問題、優遇税制の取扱いに係る問題、移転価格問題等。
(2)中国法務に関する諸問題
労働問題、合弁会社とのトラブル、監督官庁とのトラブル、工場移転手続き問題、会社清算に係る手続き問題、ニセモノ対策問題等。
(3)債権回収問題
中国で発生した債権に係る回収問題。
(4)通関・税関問題
中国特有の加工貿易に係る通関・税関問題。
(5)外貨送金問題
中国から海外に送金する場合の外貨規制に関するトラブル。
これら中国での諸問題は、中国進出した殆どの日系企業が抱える共通の悩みであり、税の専門家たる日本人税理士の支援が待たれる所以でもある。
2.税理士による中国進出企業の支援
中国進出した日系企業支援を日本人税理士が果たして出来るのであろうか………、答えはYESである。日本における税理士は、クライアントの税務処理を全て税理士本人が代行している。しかし中国は外国であり、中国の税法の知識がなければ何も出来ない。しかも中国特有の人脈世界では、人脈を活かしてのトラブル解決方法が存在する。日本人税理士がこれらのノウハウを取得するには、相当の年数と経験が必要であり、とても間に合わない。
そこで、中国での問題解決は中国人専門家に依頼し、税理士は徹底して日系企業の相談役、パイプ役に徹すれば、税務に限らず法律問題を含む全てのトラブル対応が可能となる。
これを徹底すれば、税理士による中国での日系企業支援は可能となるが、問題は力のある有能な中国人専門家のパートナーを如何に探すかである。
3.望まれる「東京税理士会・中国事務所」の開設
日系企業支援に税理士の中国進出は欠かせないが、税理士単独での中国進出は、言葉の問題、商習慣の違い、人脈等の問題があり決して容易ではない。
そこで、業界団体である「東京税理士会」が先ず中国進出を図り、税理士、税理士のクライアントの中国進出、進出後の現地支援が出来る体制づくりを行う必要がある。こうして日本の税理士、税理士会が中国進出を果たし、中国での日系企業支援が幅広く行われれば、在中日系企業はもとより、これから中国進出する日本の中小企業支援にも役立ち、国際化時代における新たな税理士界の存在を、各方面に位置づける絶好の機会になるものと思われる。
「東京税理士会・中国事務所」の開設方法は幾つかあるが、多くの市町村や商工団体が行っている中国進出の方法(JETROの中国事務所に同居する)や、「財団法人世界経済情報サービス(ワイス)」の北京事務所に同居する方法が、経費面からみて有利であり、機能的でもある。特に「財団法人世界経済情報サービス」は、中国の日系企業支援、日本企業の中国進出支援を全方面で行っている唯一の公益法人であり、中国での提携先は国家税務総局認可第1号の「中碩華税務師事務所」、中国の法務関係で最も権威のある「中国戦略管理研究会・法律中心」、中国の商工会議所と言われている「中華全国工商業連合会」等、幅広い。
この「財団法人世界経済情報サービス」の中国での人脈を活用し、税理士の中国進出を支援できる体制、「東京税理士会・中国事務所」の開設が実現出来れば、税理士の中国進出は間違いなく進むだろうと思われる。関係各者の勇気と決断に期待したい。
(担当 内田俊彦)