Ⅱ.注冊税務師事務所の業務内容と経営実態について
~中碩華税務師事務所訪問~
1.はじめに
報告書を作成するにあたり、聞き手の主観を排除するため回答者の言質を極力、忠実に再現することにした。そのため、文章表現が重複する場面も見受けられることをご容赦願いたい。
まず、訪問先事務所の概要を伝えると、当該税務師事務所は陳所長他4名の注冊税務師・注冊会計士による法人格を有する事務所である。
設立は昨年、陳所長が満60歳の定年により37年間勤めた国家税務総局を退官後に同事務所を開設したものである。
陳所長は、国家税務総局勤務時代に12年間渉外税務を担当し、日本へ5回訪問した事があり、そのうち1年間の日本滞在研修では、主として日本の移転価格税制につき勉強していた。
これらの勉強の成果は中国に戻り、中国税制の仕事に生かされている。
当方、事前提示の質問事項につき譚副所長から回答を得た。譚副所長も国家税務総局へ勤務した経歴を持ち、
1992年から1996年の5年間日本へ留学し、帰国後、注冊税務師の資格を取り現在に至っている。
2.中国税制と電子申告の現状について
我が国の税務師の歴史は日本と比べ50年近くも遅れている。日本は50年前に税理士法があり、中国の税務師制度はまだまだ日本に学ばなければならないことが多い。
さて、我が国の電子申告制度は、まだ発展しておらず、今のところシステム開発が行われているのが現状である。ただ、一部の経済上の発展地域で試策として行っている所もある。
我が国の税制は、流通税を中心とし、その主な税目に増値税と営業税があり、これらの税目は電子申告化によりスムーズな課税がなされ易い特徴がある。
もう一つの特徴として「領収書」の取り扱いにある。我が国における領収書は、税金申告で重要な位置を占め、
政府の発行する領収書以外の領収書は、取引の真実性の証拠とならないため、
政府の発行する領収書をコンピュータにより一元管理することが公平課税につながるので、電子申告制度を急ぐ必要がある。
また、現在税務当局側で税務徴収活動を完璧に行うため「金税公平活動」というキャンペーンを行っている。
これは課税・徴収におけるミスの発生を少なくしようとする活動で、電子申告の導入はこうしたミスの発生を防ぐ見地からも導入を急ぐべきである。
事実、国家税務総局も増値税を始めとする色々な税目につき、電子申告を計画しているようである。
3.税務師事務所の業務内容と活動について
当事務所のクライアントの99%が海外企業で、欧米企業と日本企業との数量はほぼ同数である。
中国進出の日本企業の数と欧米企業の数がほぼ同じなので当事務所のクライアントの割合も同様となっている。
違う点としては、欧米企業のほうが情報内容やサービスの提供をより多く求め、収入についても日本企業より多額となっている点にある。
欧米企業は仕事に対する具体的な依頼も数多くあるのに対し、日本企業はこうした依頼も少なく支払額は少額である。
当社の収入でみると、日本企業の10件に対し、欧米企業1件がほぼ同じ位の収入となる。
次に、申告代理については、当事務所では大きなウェイトを持っていない。これは我が国の経済が過去において計画経済政策を行っていたため、
どのような小さな企業でも社内に経理が存在し、税務申告はこれら社内の経理が行うため、現在の市場経済へ移行しても企業における自計能力は従前通り、
社内経理が税務申告を行っているのが現状である。従って、どの税務師事務所をとっても、申告代理は事務所の主要な業務となっていない。
但し、WTO加入後各企業がコストダウンを計り、より沢山の利益を出すために申告代理を税務師事務所へ求める事も考えられなくもないが、これは将来のことである。
当事務所の主要な代理業務としてニつの案件がある。第一として、税法に定められた方法で例えば会社設立の場合、
税務当局や登記所に対する登録手続きを行うことや、先ほどの領収書の申請を税務当局へ行う案件がある。しかし、こうした案件はクライアントへ沢山の利益をもたらすものではない。
第二として、税務師事務所の重要な収入源である税務当局との間に生じる税務問題の仲裁・解決や、合理的な税金計算の提案がこれにあたる。
中国における申告書はその記載内容が大雑把となっているのに対し税法は詳細に規定している為、
専門家としての税務師は自分達が持っている正しい税法の理解に基づいた、合理的な税金計算を提案することとなる。
このことは、勿論、中国国内の企業においても同様の問題を抱えているが、当事務所では外国企業を中心とするクライアントを持つことでそれに見合ったスタッフを雇い入れている。
国内企業をクライアントにするには、今以上忙しくなるが収入はどうなるか不明のため、こうした事業方針を採っている。
また、多額の収入を得るには、クライアントの要求に従い、法に触れない範囲で、クライアントの要求を追及するため、現地の税務当局と折衝、
クライアントの利益を守ると言う事が最も収入になる方法である。こうした行為は中国の特別な事情・慣行からくるもので、
政府と人との人的統治関係を指し、同じアジアの国として日本の方々には理解しやすいと思う。
しかし、アメリカの企業には理解しにくい事である。もし、中国で物を売った場合に、政府や政府機関から色々と注文をつけられるので仲介業を通すほうが効率がよい。
ここでいう仲介とは税務代理を言うが、中国においては、例えば中国語が話せても互いに誤解が生じないよう、
互いに信用を傷つけないような関係を早く築くために税務代理を利用したほうが良い。
中国語は中々難しい言語なので同じ発言で意味が違う事など誤解を招きやすい可能性もある。税務代理を通じて、税金を多く払う事のないようにするべきである。
納税者の立場として、法律に違反しないで、税金を安くするためには注冊税務師を税務代理仲介として利用すべきである。
4.注冊税務師事務所開設のための必要条件
注冊税務師事務所開設には、個人名義による設立(開設)は認められず、全て株式会社の形によらなけれらばならない。 又、出資者も注冊税務師、注冊会計士、弁護士の資格をもったもの以外、出資者となれないため、税務師事務所が保有するクライアントの秘密保持と出資者への情報公開の問題は生じない。 ここで言う株式会社とは、中国語で「有限責任公司」と書きその意味する所は、出資者は会社に対し出資金額の範囲内の責任を負うものとされている。 この制度の良い所は、皆で資金と力を合わせ、個人一人が行う事よりより良い方法を選択提供することにある。 こうした法人事務所は、日本の場合、監査法人のようなものと考えて欲しい。
5.税務調査について
日本の場合と同様、強制調査と任意調査の二つの方法がある。調査と実施する部署は税務局のみに権限がある。 調査において日本と違う点としては税務局が調査を行うにあたり、注冊税務師の立会いの有無を税務局が判断できる点にある。 つまり、あるクライアントの調査に対しては、注冊税務師の立会いを認めても、ある状況下においては立会いを認めないこともあるとしている点で、 この点について中国はまだ法の整備がなされていなく、日本と大きく異なるところである。
6.移転価格税制と相続税制について
中国において、移転価格税制は中国税務局の重要な調査項目となっていない。
その理由として、移転した価格の判断が複雑なため明らかに価格がおかしい場合以外、移転価格税制は注目されていない。
次に相続税については、過去数年間について検討したが、まだ法律化はされていない。
その原因として中国の個人が今どのくらい財産を持っているかが不明(捕捉されていない)ためと、
中国の土地は全て国家所有のため土地に関する売買・保有がなされていないためである。一つの例として、中国でマンションを購入した場合、
そのマンションの土地については土地の使用権(70年間)を国から購入することとなる。この購入者が10年の期間の途中にマンションを売却しようとする時、
マンション購入者は新たに国に対し土地の使用権を購入することとなる。
また、70年間の期間が満了したときに、国に対しお金を払って使用権を更新するか、マンションを出て使用権を国に返す事しか出来ない
(担当 堀子 友廣)